“Grammar for Grown-ups”

世界最古の日刊紙であるイギリスの高級誌(と評される)The Timesに「あなたは我が子より高得点が取れるか?」という見出しで、“Grammar for Grown-ups『大人のための英文法』”より抜粋した文法問題が載っていた。 その中に “Should ‘I’ or ‘me’ be used?” という小見出しで次のような空所補充問題があった。

(1) Are you and (    ) going to get a new dishwasher?
(2) Who was the last person to be picked for the team? – (    ) was.
(3) The last person to be picked for the team was (    ).
(4) Who is doing this exercise – you or (    )?
(5) Who’s going to Barbados on holiday? – My husband and (    )!
(6) It wasn’t (    ) who messed up our marriage.

正解を見ると、順に、I / I / me / me / me / me となっていた。 なるほど、おそらくそれが現代英語における最も普通の用法であろうことは納得しよう。多くの類書にも、判を押したように同様の記述が見られる。もとよりNNS(非母語話者)の私が、著者諸姉の native speaker’s intuition に対して、何を言えようか。それに、私とて、インフォーマルな場面で “It’s I.” とは言わない。主格補語は主格が原則(上問3参照)だが、おそらくNSの頭の中で“It’s I.” は強すぎるという気持ちが働くため、控えめな “It’s me.” の方が用いられるのではないだろうか。また、彼らの頭に中に、“I love her. / She loves me.” などの類推から、動詞の前に来るのは主格、動詞の後ろに来るのは目的格という漠然とした感覚があるため、be-動詞の後にも目的格を使うようになってしまったのであろう。

しかしながら、本書のタイトルは『大人のための文法』であって、『最も普通の用法』などとなってはいない。 つまり、理論的には、(1)(2)に主格の I を入れるべきだと著者諸姉が判断したのなら、(3)(4)(5)(6)も同じく主格(4・5は主語のWhoに代わるものと考えるとわかりやすい)であるから、I を正解にすべきだと私は思う。このうち(6)に関しては、日本人高校生が学習する文法ではしばしば、it is ~ that (who) を省いても文として成立するのがcleft sentence だと教える。そのような判定法を高校生に伝授すべきか否かは別の議論に譲るとして、もしもこの括弧内に me が入るとしたら、Me didn’t mess up our marriage. という文が成立することになり、理論的には正しくないことが明白となる。

ただ、Cambridge Grammar を紐解くと、“Me and my wife always go shopping on a Saturday.” という例文が載っている。“usually only found in speech”という断り書き付きではあるものの、descriptiveな潮流に乗ろうとする意図が否めない。蛇足だが “Intermediate Grammar (Oxford University Press)”というタイトルの米人女性文法家による著作があるが、同書は“I couldn’t have come.”のSpoken Formとして “I couldn’t of come.” を載せている。音声的にはそう聞こえるかもしれないが、一変形として文法書に記述するようなことではない。ここまで来ると、もう、嗤うしかない。

以上を踏まえて、もしも私が著者の1人であったら、「(3)(4)(5)(6)は(歴史的・)文法的には I が正しいが、文末あるいは動詞の後に主格の I を用いることを多くの母語話者がuncomfortableに感じるため、実際の用例では me が多い」という補足を付すだろう。 旧来の Fowler、Strunkなどの prescriptive な(そしてときに権威主義的な)態度への反動から、できる限り descriptive たらんとする姿勢が昨今の主流だが、その姿勢が、美しかるべき言語の破壊につながる恐れがある行為であることに、当該著者諸姉はお気づきでないようなのが残念だ。

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